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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)163号 判決 1989年8月16日

原告 株式会社 フジチク

右代表者代表取締役 藤村芳治

右訴訟代理人弁理士 加藤朝道

稲垣清

被告 ユニリバー、ピー エル シー

右代表者 シー、エイ、クラゴー

右訴訟代理人弁理士 浅村皓

浅村肇

村田司朗

西立人

立石幸宏

榎智達

小池恒明

岩井秀生

主文

特許庁が同庁昭和六一年審判第二三八六八号事件について、昭和六三年六月二三日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文同旨の判決

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決

第二請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、登録第一六一五四一二号商標(以下、「本件商標」という。)の商標権者である。本件商標は、別紙(一)のとおり、「マイスター」及び「MEISTER」の文字を二段に併記してなり、第三〇類「菓子、パン」を指定商品として、昭和五八年九月二九日設定の登録がされたものである。

被告は、原告を被請求人として、昭和六一年一二月九日本件商標の登録を取り消すことの審判を請求した(審判の請求の登録日は昭和六二年一月二一日)ところ、特許庁は、これを同庁昭和六一年審判第二三八六八号事件として審理し、昭和六三年六月二三日本件商標の登録を取り消す旨の審決をし、その謄本は同年七月六日原告に送達された。

二  本件審決の理由の要点

1  本件商標の構成、指定商品及び設定登録日は、前項記載のとおりである。

2  被請求人(原告)が本件商標使用の具体的証左の一つとして示す紙袋(審判時の乙第五号証添付の紙袋。本件の甲第四号証の五添付の紙袋。以下、「本件紙袋」という。)は、別紙(二)に示すとおりの表示を施した約一七センチメートル四方のものであり、この紙袋は審判時の乙第五号証においても「バーガー袋」と称されている如く、その形状、印刷表示等よりして「ムッターズ」の主力商品である「各種バーガー」、「ホットドッグ」類に専ら使用するために用意されたものとみるのが自然である。そして、その使用の実態を示す審判時の乙第三号証(本件の甲第四号証の三)の写真7も、同一のものとおぼしき紙袋こそ見受けられるものの、単に店内飲食のためのサービス状況を示しているにすぎないものである。以上の事情を勘案すれば、本件紙袋は主として店内飲食時に供される「バーガー」、「ホットドッグ」等を入れるいわば食器(容器)代りの類いのものともいえるもので、取引市場を転々流通する商品としての商品包装とはいい難く、仮に、本件紙袋に右商品あるいはそれら以外の商品(たとえば「パン」)を入れて持ち帰ることがあったとしても、被請求人(原告)が主張するPR機能(宣伝広告としての商標の使用)は、袋面の表示よりして商品区分第三二類に属する「ハンバーガー」、「ホットドッグ」についてのものにすぎないから、本件紙袋の使用が本件商標をその指定商品に使用したことにはならない。更に、被請求人(原告)提出の前記以外の各書証をみても、いずれもその主張事実を具体的に立証する書証とは認められず、他にこれを明らかにする書証の提出はない。

してみれば、本件商標は審判の請求の登録前三年以内に日本国内において、その指定商品につき使用されていなかったものと判断するのが相当である。

3  したがって、本件商標の登録は、商標法五〇条一項の規定により、これを取り消すべきものとする。

三  本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、原告の商標権の通常使用権者である訴外株式会社ビッグミートが、その経営する「ムッターズ」第一号店においてパン及び菓子を、本件商標を表示している紙袋(本件紙袋と同一の紙袋。以下、説明の便宜上、「本件紙袋」という。)に入れて昭和六一年一二月五日以降販売していたのにもかかわらず、この点の事実認定を誤って本件商標を指定商品に使用していないと判断した点に違法があり、取り消されなければならない。なお、本件商標の構成、指定商品及び登録日が本件審決認定のとおりであること並びに本件紙袋が別紙(二)に示すとおりの表示を施した約一七センチメートル四方のものであり、同紙袋が審判時の乙第五号証においても「バーガー袋」と称されているとの本件審決の認定は、認める。

1  本件審決は、「その印刷表示等よりして」と表現して、本件商標を付した本件紙袋に、別に付された「HAMBURGER」、「HOT DOG」なる英語名の記載により、本件紙袋が、ハンバーガーとホットドッグのための専用品であると誤認し、もって、菓子、パン類については本件紙袋で包装することはしていなかった事実の傍証であるかの如く判断している。

しかし、本件紙袋には、「SNACK FOOD」と記載されており、右記載は、菓子、パンを含んだ総括名称である。したがって、本件紙袋は、決してハンバーガー等の専用品ではなく、パン類にも使用されていたものである。なお、ハンバーガー、ホットドッグは、一般的にファーストフード店においてよく知られた商品であり、本件紙袋には、消費者にムッターズがファーストフード店である旨を一目でわからせるため、「HAMBURGER」「HOT DOG」と強調的に記載されているにすぎないし、前記英語名の記載がある故に菓子、パンが排除されるものでもない。ちなみに、「HOT DOG」の語句は、通例のホットドッグの形とは異なるサンドイッチの図形の上半部に書かれていることからしても、これはスナックフードの一例を示すものにすぎないことが明らかである。

2  本件審決は、更に、「紙袋の形状よりして」とも表現し、その大きさ等からしてパンは本件紙袋に入れては販売していないことの傍証の如く述べているが、本件紙袋の大きさ及び形状がパンを包装するかハンバーガーを包装するかを定める要素となるものではない。

即ち、本件紙袋の大きさ及び形状はパン、菓子にも適したものである。ムッターズ第一号店においては、甲第四号証の二(審判時の乙第二号証)のトレイマット(特にその左下部分の「焼きたてのパン」の記載)、甲第四号証の四(審判時の乙第四号証)のレシート控え(売上書)及び甲第四号証の三(審判時の乙第三号証)の写真の5、6等によって明らかなように、商標法施行令、同規則による商品の区分第三〇類のパン、菓子(アップルパイも含む)及び同第三二類のサンドイッチ、ホットドッグ、各種バーガー類が、一部の例外を除きすべてすぐ食べられる商品として飲み物とともに販売されているのである。そして、本件紙袋は、約一七センチメートル四方で二辺が閉じ二辺が開口となった、主として商品が清潔に保たれるための紙袋であり、必要に応じこれらの商品を原則として一個ずつ包装して販売するものである。即ち、客が商品を受取る際この紙袋により商品が清潔に保たれるとともに、客は、この紙袋により手を汚すことがなく、また、汚れた手でさわってもパン、菓子等前記商品を汚すことがないので、食前、食後とも手を洗うことを要せずにこれらを食べることができるものである。また、これら商品を客が持ち帰る場合には、これらの商品を汚すことのないよう本件紙袋で包装した後、更に別の大きな持ち帰り用紙袋(例えば甲第九号証添付の中型紙袋)に収納して販売しているのである。右事実によれば、一部の例外を除き、本件紙袋の大きさ及び形状が、各種バーガー、ホットドッグのみならず、これらと同様に、すぐ食べられる商品であって同程度の大きさのサンドイッチ、パン(特にクロワッサン等の焼きたてのパン)、菓子(特にアップルパイ)を包装するにも適するものであることが明らかである。

3  次に、前記「ムッターズ」第一号店が前掲商品の店内飲食及び持ち帰りの両方のサービスを行っているのを本件審決は看過し、本件紙袋を「ハンバーガー等の店内飲食用の食器(容器)代りにすぎない」としているが、誤りである。

本件審決は、ファーストフード店を、従来から存在する食堂等と同じサービス業を行う店であると誤認している。即ち、そもそもファーストフード店は、従来からある食堂等とは全く異なる販売形態を有するものである。ファーストフード店ではレジで購入した商品は、店の一部に置かれた椅子、テーブルを使用して店内で飲食することも、あるいは店外へ持ち出して道路上や自動車内で、更には家に戻って飲食することも全く客の自由に任されているものである。営業者と客との売買行為は、レジで商品の受け渡しをするとともに金銭の清算をすることにより原則的に終了しているものである。この点において、かかる商品の販売形態を有しない食堂、喫茶店等のサービス業とは一線を画するものであり、商品を持ち帰る場合はもちろん、店内で飲食する場合であっても商品の売買が存在するものである。「ムッターズ」第一号店はファーストフード店であるところ、したがって「本件紙袋にパンを入れて持ち帰った」場合は当然、「パンを店内で飲食し、食器代りの類いのものとして本件紙袋を使用しても」、商品を本件紙袋に入れて譲渡したことが前提となるものである。「ムッターズ」第一号店においては、前記のようにこれらの販売形態のいずれをも行っており、商品「パン」を本件紙袋に入れ販売していたのであるから、これは商標法二条三項二号の商標の使用に該当し、本件商標の使用事実は存在したものである。

被告は、東京高等裁判所昭和六三年三月二九日言渡判決を引用しているが、同判決は、「……例外的に和食料理を折り箱に詰めて持ち帰り用として有償で提供する場合の料理物の折詰や、……右顧客が料理の残り物を折り箱に入れて持ち帰る場合の右残り物を入れた折詰は……商標法の商品に当らない」とするものであり、右にいう例外的な持ち帰り用折詰でも和食料理の残り物用折詰でもなく、菓子、パン等の商品自体を入れて継続的に持ち帰りに供している本件においては、右判決の事例は全く事例を異にするものである。

4  更に、本件審決は、「(持ち帰り客が)パン又はパン以外の商品を入れて持ち帰ったとしてもPR機能(宣伝広告としての商標の使用)が生じない」としているが、逆に、これは明らかに商標法二条三項三号の使用に該当することとなる。なぜならば、本件紙袋には、前記の如く本件商標及び指定商品の総括名称(SNACK FOOD)が記載されているからである。

第三請求の原因に対する認否、反論

一  請求の原因一、二の事実は認める。同三の主張は争う。

二  本件審決の認定判断は正当であり、原告主張のような違法はない。

1  請求の原因三の1、2について

本件紙袋について、本件審決が、「ムッターズ」第一号店の主力商品である「各種バーガー」、「ホットドッグ」類に専ら使用するために用意されたものとみるのが自然である旨判断したのは正に実状を正しく把握してなしたものである。本件審決の判断は、決して「印刷表示」のみに由来するものでなく、本件紙袋の大きさ、形状(約一七センチメートル四方で、品物を入れる空間としてのまち紙部分は全くない。)、「バーガー袋」と称されている点等から総合してその結果を導いているもので、それは実状を正しく把握した上での判断である。これに対する原告の主張は実状と相違し、到底認めることはできないものである。

原告の主張の第一は、本件紙袋の上に「SNACK FOOD」の文字の記載があるから、これに通常含まれるべき菓子、パン類が排除される道理は存在しないというものである。しかしながら、右主張は大きな矛盾を含むもので到底認めることができない。もし、「スナックフード」を菓子を含む総括的名称として使うのであれば、なぜ菓子でない(言い換えれば第三〇類商品でない第三二類商品の)「HAMBURGER」及び「HOT DOG」の文字をこのように顕著に書いたのか理解できない。その上、「バーガー」の図形の上にわざわざ「SNACK FOOD」の文字を書いているのであるから、このスナックフードとは、ハンバーガー、ホットドッグをもって「スナックフード」と言っていることがおのずと理解できるところである。その上、約一七センチメートル四方の極めて特殊な袋で、ハンバーガー一つがちょうど入る大きさで、袋のまち紙部分がなく、ハンバーガー、ホットドッグを食べる時それに手を直接接触させずに食べるに適した袋である事実を考えれば、本件審決が、各種バーガー」、「ホットドッグ」類に専ら使用するために用意されたものと認定したことがいかに正しい判断であったかが容易に分かるところである。

第二に、原告は、本件紙袋の大きさ及び形状の点について主張しているが、この点は右に指摘したとおり本件審決の判断が妥当である。原告はこの紙袋をあたかも、パンの包装にも使用しているかの如き主張をしているが、事実に反する。パンの販売には別のまち紙部分を作った大きな袋で、本件商標の記載はなく、「ムッターズ」の商標を使用した袋を用いていた(なお、パンの大きさにより変えることができるように袋のサイズは何種類かあった模様である。)のである。

2  同3について

本件紙袋によりパンをテークアウトしている証拠はどこにもない。甲第四号証の一の新聞記事において、例外的販売態様として「テークアウト」が記載されているが、その場合にいかなる包装が使用されているかについての証拠は皆無である。してみると、本件審決が、本件紙袋について、「主として店内飲食時に供される「バーガー」、「ホットドッグ」等を入れるいわば食器(容器)代りの類いのものといえるもので、取引市場を転々流通する商品としての商品包装とはいい難く」と認定判断したところに何の誤りもない。

昭和六三年三月二九日言渡しの東京高等裁判所昭和六二年(ネ)第一四六二号判決は、商品について、「商取引の目的物として流通性のあるもの、即ち、一般市場で流通に供されることを目的として生産された有体物であると解すべきである。」としている。しかるに、本件における「パン」は「焼きたてのパン」即ち、今焼いたばかりの暖かいパンをキャッチフレーズとし、その店舗で販売しているのであるから、いわゆる市場の流通過程に供さないものである。したがって、店頭で「パン」を反復継続して販売する事例ではないから、右判例の立場から、本件商標の使用はそこには無かったものと評価しなければならない。

3  同4について

本件紙袋を包装として使用してパンを販売している事実はなく、したがって、「パン」を本件紙袋に入れて販売していたことを前提にした原告の主張は根拠がない。

第四証拠関係《省略》

理由

一  請求の原因一、二の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の本件審決を取り消すべき事由について判断する。

(一)  《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。即ち、

1  原告は、子会社の一つである名古屋ムッターハム販売株式会社に指示し、昭和五九年九月二八日、本件紙袋合計六万枚を訴外株式会社折兼から購入させ、右株式会社名古屋ムッターハム販売株式会社が営業に携った名古屋城博及び原告の直営で行ったインポートフェアへの各出店販売において本件紙袋を使用したこと、

2  その後、原告を中心とするフジチクグループは、外食産業(ファーストフード)へ進出することを目的として、昭和六一年三月一七日、その本店を名古屋市とする子会社株式会社ビッグミートを設立したが、同会社は、昭和六一年一二月五日、愛知県海部郡蟹江町に「ムッターズ」第一号店を開店し、同店では、ハンバーガー、クロワッサンサンド等のハンバーガー類、フライドポテト等のサイドオーダー類、コーヒー、ジュース等のドリンク類、アイスクリーム類、アップルパイ、フランスパン、ドーナツ、コーンロール等の焼き立てパンを販売品目としていること、

3  「ムッターズ」第一号店の店長で右株式会社ビッグミートの外食産業課長の森坂義孝は、「ムッターズ」第一号店開店に当たり、予め、同人のデザインで「ムッターズ」のマークだけが入っている一七センチメートル四方の紙袋(以下、「森坂デザインの紙袋」という。)のほか、同人の発意で大、中、小の大きさの外袋、発砲スチロールパック、ポリの手提げ袋を購入し同店に備え付けたこと、

4  同店では商品の販売に際し、森坂デザインの紙袋はハンバーガー、ホットドッグ、サンドイッチ、焼き立てパン、ドーナツ類を入れることに使用するためのもの、大、中、小の外袋はハンバーガー、焼き立てパン等を入れた森坂デザインの紙袋及びドリンク類、サイドオーダー類を入れることに使用するためのもの、ポリの手提げ袋は外袋に入れたものを、そして発砲スチロールのパックはチキンナゲットを入れることに使用するためのものとしたこと、

5  ところが、「ムッターズ」第一号店の開店直前の昭和六一年一二月初めころ、森坂義孝は原告会社の社長室長の尾林克美から、前記名古屋城博やインポートフェアで使用した残りの本件紙袋約一万枚を渡され、「ムッターズ」第一号店においてこれを使用するように指示され、そこで森坂義孝は、森坂デザインの紙袋などとともに本件紙袋も同時に使用することにし、これらを同店のレジカウンターの下などに備え置き、店員がこれらいずれをも使用できるようにしたこと、

6  ところで、同店では顧客が焼き立てパン(その種類としては、アップルパイ、レモンクリームパイなどのパイ類、クッペなどフランスパン類、ドーナツ、クロワッサンなどがある。)を買う場合は、自分で、陳列棚にある他の商品同様に棚から商品を選び、これをトレイに乗せてレジカウンターまで持参するものであるが、そのようにして顧客が商品をレジカウンターまで持参した場合、店員は、店内飲食か持ち帰りかを顧客に確認し、店内飲食の場合は右商品を本件紙袋か森坂デザインの紙袋に一個ずつ入れ、それらを更にトレイの上に置いたバスケットの上に置き、代金と引換えに顧客に渡し、持ち帰りの場合は商品を本件紙袋又は森坂デザインの紙袋に入れたうえ、更に持ち帰り用の外袋に入れて、代金と引換えに顧客に渡していたこと、

7  「ムッターズ」第一号店内における商品の販売状況は以上のとおりであるから、焼き立てパンも本件紙袋に入れて販売されており、右のようにして使用された前記約一万枚の本件紙袋は昭和六一年一二月五日の開店日から昭和六二年二月末ころまでの間に同店においてほぼ使い終わったこと。

(二)  右認定事実からすれば、「ムッターズ」第一号店では、少くとも右の期間、前叙焼き立てパンを、本件商標が表示されている本件紙袋に入れて販売していたものということができるところ、右焼き立てパンは、商標法施行令第一条に定める別表の商品の区分第三〇類のパン、菓子に該当するものであるから、右パン、菓子を本件紙袋に入れて販売した行為は、前叙の店内飲食の場合においても、持ち帰りの場合においても、パン、菓子について商標法二条三項二号に規定する「商品の包装に標章を附したものを譲渡する行為」に該当するものということができる。

(三)  被告は、「本件紙袋の印刷表示、大きさ、形状及び「バーガー袋」と称されている点等を総合すると、「本件紙袋は、「各種バーガー」、「ホットドッグ」類に専ら使用するために用意されたものとみるのが自然である」旨の本件審決の認定判断は正当である旨主張するところ、本件紙袋が、本件審決が認定するとおり、別紙(二)に示すとおりの表示を施した約一七センチメートル四方のものであること及び右紙袋が「バーガー袋」と称されていたことは原告の自認するところであるが、《証拠省略》によれば、本件紙袋は、商品一個ずつ右紙袋に入れ、そうすることによって、種類の異なる商品同士が直接接触するのを防ぎ、また、本件紙袋の上からそれらの商品を直接手でつかんでも、手を商品で汚さずに、あるいは商品を手で汚さずに食べることができるようにするためのものであることが認められ、この事実からすれば、本件紙袋の使用の必要性がある点では「ムッターズ」第一号店で販売されるパン、菓子類とハンバーガー、ホットドッグ類とでは大差がないと認めるのが相当であるから、本件紙袋の印刷表示が別紙(二)のとおりであることや、その大きさ、形状及び「バーガー袋」と称されていること等の本件審決挙示の事実が認められるからといって、本件紙袋が「ハンバーガー」、「ホットドッグ」を入れる専用の袋と即断することはできず、したがって、右審決挙示の事実は本件紙袋にパン、菓子を入れて販売していたと認定することの妨げとなるものではない。被告の主張は肯認することができない。

(四)  また被告は、本件審決が、本件紙袋について、「主として店内飲食時に供される「バーガー」、「ホットドッグ」等を入れるいわば食器(容器)代りの類いのものともいえるもので、取引市場を転々流通する商品としての商品包装とはいい難く」と認定判断したところに何の誤りもない旨主張するが、本件紙袋がパン、菓子の販売につきそれの包装として使用されていたことは前叙のとおりであるから、本件紙袋が単なる食器代わりの類いのものとはいえないことは明らかであるから、この点において本件審決の右認定は既にして誤りであり、被告の右主張もまた誤りである。

(五)  被告が引用する東京高等裁判所昭和六三年三月二九日言渡の判決(同庁昭和六二年(ネ)第一四六二号)は、店舗において飲食した顧客からの注文で例外的に和食料理を折り箱に詰めて持帰り用に有償で提供する場合の料理物の折詰及び右顧客が料理の残り物を折り箱に入れて持ち帰る場合の右残り物を入れた折詰に関するものであって、本件とは事案を異にするから、本件に適切ではない。なお、被告は、右判決に関して、「ムッターズ」第一号店におけるパンは、いわゆる市場の流通過程に供さないものであるとして、その故に商品とはいえないかの如き主張をするが、本件紙袋に入れて販売されるパン、菓子が、「ムッターズ」第一号店で焼き上げられて直ちに同店内で顧客に販売され、食されてしまうという意味で、被告主張のように、取引市場の流通過程に供されない商品であるとすることは理解できないことではないが、そのことは、本件のパン、菓子の商品性を否定する理由とはならないから、被告の右主張は採ることができないし、また、同店のパン、菓子の販売が店頭で反復継続して販売する事例ではないから右判決の立場から本件商標の使用はないと評価しなければならない旨の被告の主張は、本件において、右判決に述べるところから当然に右主張のとおりに結論づけねばならない理論的ないし実質的根拠は見出せないので、採用の限りでない。

(六)  以上に説示してきたところによれば、本件商標は、本件審判の請求の登録前三年以内に日本国内においてその指定商品につき使用されていたのであるから、これを、使用されていなかったとした本件審決の認定判断は誤りであって、本件商標の登録を取り消すものとした本件審決は、原告のその余の主張を検討するまでもなく違法として取消を免れない。

三  以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤った違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秋吉稔弘 裁判官 西田美昭 木下順太郎)

<以下省略>

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